【脳卒中後の入浴動作】安全に入浴するためのポイントと補助具を理学療法士・作業療法士が解説

目次

はじめに

「退院したけれど、自宅のお風呂に入るのが怖い……」

「一人で入浴できるか不安」

「家族としてどう手伝えばいいのかわからない」

脳卒中を経験された方やそのご家族から、このようなご相談を受けることは少なくありません。

脳卒中後の入浴は、日常生活の中でも特に難しい動作の一つです。服を脱ぐ、身体を洗う、浴槽をまたぐ、立ち上がるなど、さまざまな動作が必要になります。さらに、浴室は床が濡れて滑りやすく、転倒の危険も高い場所です。

そのため、「お風呂に入りたいけれど怖い」「家族だけでは不安」という気持ちから、週1回だけで済ませたり、介護サービスを利用したりしている方もいらっしゃいます。

しかし、脳卒中後であっても、身体の状態に合わせて練習を行い、環境を整えることで、安全に入浴できる可能性があります。また、補助具を上手に活用することで、自分でできることが増えるケースも少なくありません。

この記事では、脳卒中後に入浴が難しくなる理由や、安全に入浴するためのポイント、おすすめの補助具について、理学療法士・作業療法士の視点からわかりやすく解説します。

なぜ脳卒中後は入浴が難しくなるのか?

麻痺によってバランスが崩れやすくなる

脳卒中後は、身体の片側に麻痺が残ることがあります。

普段の生活では歩けていても、浴室では急に不安定になることがあります。なぜなら、入浴では片足で立つ場面が多いからです。

例えば、

・ズボンを脱ぐとき
・足を洗うとき
・浴槽をまたぐとき

このような場面では、一時的に片足で身体を支える必要があります。

しかし、麻痺によって身体を支える力が低下していると、少しの動きでもふらつきやすくなります。その結果、転倒につながる危険があります。

足が上がりにくくなる

脳卒中後は、足を高く上げることが難しくなる場合があります。

浴槽をまたぐには、普段の歩行よりも高く足を持ち上げなければなりません。

「歩くことはできるのに、お風呂だけ怖い」

そのように感じる方が多い理由の一つが、この浴槽をまたぐ動作にあります。

またぐ途中で足先が浴槽に引っかかり、バランスを崩してしまうこともあります。

手が使いにくくなる

入浴では、身体を洗うために両手を使う場面が多くあります。

しかし、脳卒中後は、

・頭や背中が洗いにくい
・タオルを絞れない
・シャンプーをうまく使えない

など、さまざまな困りごとが生じることがあります。

その結果、無理な姿勢になり、転倒の危険が高まることも少なくありません。

感覚が鈍くなることがある

脳卒中後には、足の裏の感覚が鈍くなることがあります。

足の位置がわかりにくくなるため、身体のバランスを保つことが難しくなります。

また、お湯の温度を感じにくくなる場合もあります。

熱いことに気づかず、やけどをしてしまう危険もあるため注意が必要です。

疲れやすくなる

入浴は想像以上に体力を使います。

服を脱ぐ、身体を洗う、浴槽に入る、身体を拭く、服を着るという一連の流れだけでも、大きなエネルギーを必要とします。

脳卒中後は疲れやすくなる方が多く、途中で集中力が低下すると、転倒につながることがあります。

「お風呂の後はぐったりする」

「疲れて何もしたくなくなる」

このような場合は、入浴方法を見直すことも大切です。

入浴で起こりやすい3つの危険

①浴室内での転倒

浴室の床は濡れているため、とても滑りやすい環境です。また、普段装具を使用している方は、装具を外す場面でもあります。

少しのふらつきでも転倒につながる可能性があります。

特に片麻痺がある方は、身体を支える力が弱くなっているため注意が必要です。

※装具は入浴時や就寝時を除き、安全性のためできるだけ装着して過ごすことをおすすめします。

②浴槽の出入りでの転倒

浴槽をまたぐ動作は、入浴の中でも難しい動作の一つです。

片足で身体を支えながら、もう一方の足を高く上げる必要があります。

このときにバランスを崩し、転倒してしまうケースが少なくありません。

③のぼせや血圧の変化

長時間の入浴や熱いお湯は、身体への負担が大きくなります。

急に立ち上がると、めまいや立ちくらみが起こることもあります。

安全に入浴するためには、無理をしないことが大切です。

安全に入浴するためのポイント

脳卒中後の入浴で最も大切なことは、「無理をしないこと」です。

以前と同じように入浴しようとすると、思わぬ転倒や事故につながることがあります。現在の身体の状態に合わせて、少しずつ工夫していきましょう。

①体調が良い時間帯に入浴する

疲れているときや体調が優れないときは、バランスが崩れやすくなります。

特にリハビリを頑張った日や睡眠不足の日は、いつも以上に身体が疲れていることがあります。

「今日は少し疲れているな」と感じたら、無理に浴槽につからず、シャワーだけにするという選択も大切です。

安全に入浴するためには、その日の体調に合わせて方法を変えることも必要になります。

②お湯の温度は熱すぎないようにする

熱いお湯が好きな方もいるかもしれません。

しかし、熱すぎるお湯は血圧の変動を大きくし、身体への負担が増えることがあります。

目安としては38〜40℃程度の少しぬるめのお湯がおすすめです。

長時間つかり過ぎず、10〜15分程度を目安にするとよいでしょう。

③急いで動かない

お風呂場では、「早く動かなければ」と焦りは禁物です。

急いで立ち上がったり、急いで浴槽をまたいだりすると、転倒の危険が高くなります。

一つひとつの動作をゆっくり行うことが大切です。

立ち上がる前には一度深呼吸をする、手すりをしっかり握るなど、自分なりの習慣を作るのもおすすめです。

④座って身体を洗う

立ったまま身体を洗うと、ふらつきや転倒につながることがあります。

不安がある方は、入浴用の椅子を使用して座った状態で身体を洗いましょう。

座って行うことで、身体の力を抜きやすくなり、疲れにくくなるというメリットもあります。

⑤疲れたら休憩する

入浴は思っている以上に体力を使います。

「最後まで頑張らないと」と無理をすると、途中で疲れて転倒する危険があります。

少しでも疲れを感じたら、椅子に座る、一度休憩するなど、余裕を持った入浴を心がけましょう。

⑥一人で不安な場合は介助を受ける

「迷惑をかけたくない」「自分でやりたい」という気持ちから、無理をしてしまう方も少なくありません。

しかし、一度転倒してしまうと、骨折や再び寝たきりにつながる可能性があります。

少しでも不安がある場合は、ご家族や介護サービスを利用しながら安全に入浴することが大切です。

脳卒中後におすすめの入浴補助具

補助具を使うことに抵抗を感じる方もいるかもしれません。

しかし、補助具は「できなくなったから使うもの」ではありません。

「安全にできることを増やすための道具」です。

自分に合った補助具を使うことで、入浴への自信につながることもあります。

手すり

手すりは、立ち上がりや方向転換、浴槽をまたぐ際に身体を支えるための大切な道具です。

特に麻痺側に十分な力が入りにくい方にとって、手すりがあるだけで安心感が大きく変わります。

シャワーチェア

入浴用の椅子です。

座って身体を洗えるため、転倒の危険を減らすことができます。

また、疲れやすい方の体力の負担を軽くすることにもつながります。

浴槽手すり

浴槽の縁に取り付ける手すりです。

浴槽の出入りをするときの支えになります。

「またぐのが怖い」「浴槽から出るときにふらつく」という方におすすめです。

浴槽台

浴槽の中に置く台です。

浴槽の底が深い場合でも、立ち上がりやすくなります。

膝や腰への負担を軽減する効果も期待できます。

滑り止めマット

浴室は濡れているため、足元が滑りやすくなります。

滑り止めマットを使用することで、転倒予防につながります。

長柄スポンジ

片手では背中が洗いにくい方や、身体を大きくひねることが難しい方におすすめです。

無理な姿勢を減らすことで、安全に身体を洗えるようになります。

洗体タオル(ループ付きタオル)

片手では背中が洗いにくい方や、肩が動かしにくい方におすすめです。


紐付きの洗体タオルを使うことで、無理なく背中までしっかり洗えます。


身体への負担を減らし、安全に入浴しやすくなります。

バスボード

浴槽の縁に設置して座りながら出入りを行う道具です。

浴槽をまたぐことが難しい方でも、安全に入浴できる可能性があります。

家族が介助するときのポイント

脳卒中後の入浴では、ご家族のサポートが必要になることがあります。

しかし、「どのように手伝えばよいかわからない」と悩むご家族も少なくありません。

すべてを手伝いすぎない

転倒が心配なあまり、何でも介助してしまうことがあります。

しかし、できることまで介助してしまうと、自分で身体を使う機会が少なくなってしまいます。

少し時間がかかっても、ご本人ができる部分は見守ることが大切です。

急がせない

入浴は多くの動作が必要になります。

焦ることで転倒につながる場合もあります。

「ゆっくりで大丈夫だよ」と声をかけながら、安心して動ける環境を作りましょう。

麻痺側を支える

ふらついたときに支えられるよう、基本的には麻痺側に立つことが多いです。

ただし、身体の状態によって介助方法は異なります。

無理をせず、担当の理学療法士や作業療法士へ相談することをおすすめします。

ご家族だけで抱え込まない

介助する側の負担もとても大切です。

腰を痛めてしまったり、精神的な負担が大きくなったりすることもあります。

必要に応じて訪問リハビリや介護サービスを利用することも検討しましょう。

「また家のお風呂に入りたい」は大切な目標

私たちは多くの利用者様から、

「もう一度、自宅のお風呂にゆっくり入りたい」という声を聞きます。

入浴は単に身体を洗うための動作ではありません。

湯船につかってリラックスする時間。一日の疲れを癒す時間。

自分らしい生活を感じられる大切な時間でもあります。

実際に、自宅で再び入浴できるようになったことで、

「自信がついた」

「できることが増えた」

「外出する意欲が出てきた」

という方も多くいらっしゃいます。

入浴ができるようになることは、生活の質を高めることにつながるのです。

こんな場合はリハビリ専門職へ相談しましょう

次のような場合は、一人で悩まずに相談することをおすすめします。

・一人での入浴が怖い
・退院後にまだお風呂へ入れていない
・浴槽をまたぐことができない
・転倒したことがある
・どの補助具を選べばよいかわからない
・家族の介助負担が大きい

理学療法士や作業療法士は、身体の状態だけでなく、自宅の環境に合わせた入浴方法や補助具の提案も行っています。

「お風呂は無理だ」と諦める前に、一度相談してみることが大切です。

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まとめ

脳卒中後の入浴は、麻痺やバランス能力の低下、疲れやすさなどによって難しくなることがあります。また、浴室は家の中でも転倒しやすい場所であり、十分な注意が必要です。

しかし、身体の状態に合わせて環境を整えたり、補助具を活用したりすることで、安全に入浴できる可能性があります。

「また家のお風呂に入りたい」という気持ちは、とても大切な目標です。

一人で悩まず、ご家族やリハビリ専門職と一緒に、自分に合った入浴方法を見つけていきましょう。

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