【専門家が解説】片麻痺の床から立ち上がる方法|安全に立つためのポイント

目次

はじめに

「転んでしまったけれど、一人では立ち上がれない」

「床に座った後、立ち上がるのが大変」

「和室で生活しているので、床から立つ動作に不安がある」

脳卒中後に片麻痺が残ると、このような悩みを抱える方は少なくありません。

歩くことや立ち上がることは練習していても、「床から立ち上がる」という動作を練習する機会は意外と少ないものです。しかし、実際の生活では、転倒したときや畳で過ごすとき、庭仕事や掃除をするときなど、床から立ち上がる場面は意外と多くあります。

この動作が難しいままだと、「また転んだらどうしよう」「一人で家にいる時間が不安」と感じ、外出や活動を控えてしまうこともあります。

一方で、床から立ち上がる動作は、筋力だけで決まるものではありません。身体の動かし方や重心の移動、身体を支える順番などを理解し、自分に合った方法を身につけることで、安全に立ち上がれる可能性があります。

この記事では、片麻痺の方が床から立ち上がりにくくなる理由、安全に立ち上がるために知っておきたいポイントについて、わかりやすく解説します。

なぜ片麻痺では床から立ち上がるのが難しいのか?

「昔は簡単にできていたのに、今は床から立つだけでも大変」

そう感じる方は多くいらっしゃいます。

床から立ち上がる動作は、椅子から立ち上がるよりも身体を大きく動かす必要があります。そのため、片麻痺による身体の変化が影響しやすい動作の一つです。

ここでは、その理由について見ていきましょう。

麻痺した側へ体重を乗せることが難しい

床から立ち上がるときには、左右の足へ交互に体重を乗せながら身体を支えます。しかし、片麻痺になると麻痺した側へ体重を乗せることに不安を感じる方が多くいます。

「足に力が入らない気がする」

「倒れそうで怖い」

そのような気持ちから、無意識に元気な側(非麻痺側)ばかりへ体重をかけてしまいます。

すると身体のバランスが崩れやすくなり、立ち上がる途中でふらついたり、何度もやり直したりすることにつながります。

立ち上がりでは「力を入れる」ことだけでなく、「安心して身体を預けられること」も非常に重要です。

身体を支える力が低下している

床から立ち上がるためには、足だけではなく、お腹や背中、腰まわりなど身体の中心部分もしっかり働く必要があります。

身体の中心が安定していることで、腕や足をスムーズに動かせます。しかし、脳卒中後は身体の中心がうまく働きにくくなることがあります。

その結果、

・身体が左右へ傾く

・前へ体重を移せない

・手をついても身体を支えられない

といった状態が起こります。

「腕に力がない」と思っていても、実際には身体の中心が安定していないことが原因となっている場合も少なくありません。

筋力だけでは解決できない

「筋力を付ければ立ち上がれるようになる」

そう思われる方もいますが、床から立ち上がる動作は筋力だけで行うものではありません。

例えば、身体をどの方向へ動かすのか、どちらの手を先につくのか、いつ足へ体重を移すのかなど、動きの順番がとても大切です。

健康な方は無意識に行っていますが、脳卒中後はその順番が分かりにくくなることがあります。

そのため、一生懸命力を入れても身体がうまく動かず、「頑張っているのに立てない」と感じてしまうのです。

リハビリでは、この「動き方」を練習することも大切な目的の一つになります。

転倒への恐怖心も大きく影響する

一度転倒を経験すると、「また転ぶかもしれない」という不安が強くなる方は少なくありません。

その気持ちは自然なことです。

しかし、不安が強くなると身体は必要以上に力が入り、動きがぎこちなくなります。

身体が硬くなることで重心移動がしにくくなり、かえって立ち上がりにくくなることもあります。

つまり、床から立ち上がるためには、身体の機能だけでなく「安心して動ける環境」を整えることも重要になります。

床から立ち上がる前に確認したいこと

「早く立たなければ」

転倒した後や床で作業をした後は、そのように焦ってしまうことがあります。

しかし、慌てて立ち上がろうとすると再び転倒し、ケガにつながる危険があります。

まずは落ち着いて周囲の状況を確認しましょう。

無理に立ち上がろうとしない

転倒した直後は気持ちが焦ります。

ですが、勢いだけで立ち上がろうとすると身体を支えきれず、再び転んでしまう可能性があります。

まずは深呼吸をして、痛みがないか確認しましょう。

頭を強く打った場合や強い痛みがある場合は、無理に動かず周囲へ助けを求めることが大切です。

支えになる物を利用する

床から立ち上がるときは、安定した家具を利用すると安全性が高まります。

例えば、動かないソファや丈夫な椅子、低めのテーブルなどは身体を支える助けになります。

一方で、キャスター付きの椅子や軽い家具は動いてしまう危険があります。

支えとして使う前に、しっかり固定されていることを確認しましょう。

自分に合った方法を選ぶことが大切

片麻痺といっても、身体の状態は一人ひとり異なります。

足の動きが得意な方もいれば、腕の方が使いやすい方もいます。

また、麻痺の程度や身長、生活環境によっても立ち上がりやすい方法は変わります。

インターネットで紹介されている方法をそのまま真似するのではなく、「自分にはどの方法が安全なのか」を確認することが大切です。

リハビリでは、その方の身体に合った立ち上がり方を一緒に考えながら練習します。

その結果、自宅でも安心して動けるようになり、転倒への不安が少しずつ軽減していく方も多くいらっしゃいます。

安全に立ち上がるためのポイント

床から立ち上がる動作は、「力があるかどうか」だけで決まるものではありません。

身体の使い方を少し工夫するだけで、立ち上がりやすさや安全性は大きく変わります。

ここでは、片麻痺の方が床から立ち上がる際に意識したいポイントをご紹介します。

①身体を前へ移動させてから立ち上がる

立ち上がろうとすると、多くの方は身体を真上へ持ち上げようとします。

しかし、床から立ち上がるためには、まず身体を前へ移動させることが大切です。

身体が前へ移動すると、自然と足の上へ体重が乗りやすくなります。その結果、腕だけに頼ることなく、身体全体を使って立ち上がれるようになります。

「立ち上がる」というよりも、「身体を前へ運ぶ」という意識を持つと、動きがスムーズになることがあります。

②一つひとつの姿勢を安定させてから次の動作へ進む

転倒した後は、「早く立たなければ」と焦ってしまうことがあります。

しかし、急いで動こうとすると身体のバランスを崩し、再び転倒する危険があります。

例えば、横向きになったら一度姿勢を整える、四つ這いになったら身体が安定していることを確認する、片膝立ちになったらふらつきがないことを確認するなど、一つひとつの姿勢を安定させながら進むことが大切です。

慌てずに動作を区切ることで、身体への負担が少なくなり、安全に立ち上がりやすくなります。

③麻痺した側も「支え」として参加させる

片麻痺になると、どうしても麻痺していない側ばかり使ってしまいがちです。

もちろん、安全を優先することは大切ですが、麻痺した側をまったく使わなくなると、身体のバランスが崩れやすくなります。

無理に力を入れる必要はありません。

例えば、麻痺した手を軽く床につける、足裏を床へ触れさせるなど、身体を支える役割として少し参加させるだけでも、動きやすさが変わることがあります。

リハビリでは、「動かすこと」だけでなく、「身体全体で協力して動くこと」を大切にしています。

麻痺した側もできる範囲で参加させながら動くことで、立ち上がりだけでなく、歩行や立ち座りなど日常生活のさまざまな動作にも良い影響が期待できます。

床から立ち上がるために必要な「3つのリハビリ」

「とにかく立ち上がる練習を何度も繰り返せば、できるようになる」と思われがちですが、実はそれだけではうまくいかないことがほとんどです。

床から安全に立ち上がるためには、ただ動作を繰り返すだけでなく、その動作を支える「基礎的な身体の力」を一つずつ整えていくリハビリが不可欠です。

① 身体の中心(体幹)を安定させる練習

床から立ち上がるとき、私たちの身体は大きく折り曲がったり伸びたりします。このとき、お腹や背中、腰まわりといった「身体の中心」がグラグラしていると、手足にうまく力が伝わりません。

  • なぜ必要か: 中心が安定することで、手足を伸ばしやすくなり、立ち上がる途中のふらつき(転倒リスク)を劇的に減らせるからです。
  • リハビリ内容: 無理な筋トレではなく、まずは「良い姿勢で座る」「寝返りや寝た状態でお尻を持ち上げる」など、身体の軸を意識する練習から始めていきます。

👉体幹の役割について詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。

「足が重い、手が上がらない」原因は体幹かも?脳卒中後に多い5つの悩み

② 麻痺した側へ「安心して体重を乗せる」練習

立ち上がりにくさを抱える方の多くは、麻痺した側の手足に体重を乗せることに対して、無意識に強いブレーキ(不安感)をかけてしまっています。

  • なぜ必要か: 「麻痺側に体重を乗せても大丈夫だ」と脳と身体が学習できると、良い方(非麻痺側)だけに頼る必要がなくなり、左右均等にスムーズに立ち上がれるようになります。
  • リハビリ内容: いきなり立つのではなく、まずは「座った状態で、左右にお尻の体重を移動する」「セラピストが支えながら、ゆっくり麻痺側の足に体重を預けてみる」といったステップを踏んで、不安を少しずつ安心感へと変えていきます。

💡 実は大きなメリットも! 麻痺した側へ安心して体重を預けられるようになると、立ち上がりだけでなく、「歩くときの一歩が軽くなる」「立っている時の安定感が変わる」など、日常生活のあらゆる動作が楽になります。

🏋️麻痺側へ安心して体重を乗せられるようになるためには、身体を支える筋肉の働きも欠かせません。特に、臀筋と大腿四頭筋は立ち上がりを支える重要な筋肉です。以下の動画で、それぞれの運動方法をご紹介しています。

大腿四頭筋(太ももの前の筋肉)の運動

臀筋(お尻の筋肉)の運動

③ 実際の生活スペースを想定した「応用練習」

病院のリハビリ室は、床が平らで、周りに十分なスペースがあり、滑りにくい理想的な環境です。しかし、いざ自宅に戻るとそうはいきません。

  • なぜ必要か: 自宅の床は畳、フローリング、カーペットなど滑りやすさが異なり、家具の配置やスペースの広さもバラバラだからです。
  • リハビリ内容:
    • 自宅で普段使っているお気に入りのソファや椅子の高さを再現した練習
    • 万が一、狭い場所で転んでしまったときを想定した位置での立ち上がり練習
    • 実際の家具の配置に合わせた手をつく位置のシミュレーション

退院後のリハビリにおいて最も大切なのは、「できるようになること」だけではなく、「生活の中で安全にできること」を目標にすることです。

こんな場合は専門的なリハビリをおすすめします

床から立ち上がる練習はご自宅でも取り組める場合があります。しかし、すべての方が自己流で練習することが安全とは限りません。間違った身体の使い方がクセになってしまったり、転倒を繰り返したりする危険性があります。

もし、以下のような状況に一つでも当てはまる場合は、一度リハビリ専門職へ相談することをおすすめします。

●何度も転んでしまっている 

「また転ぶかも」という恐怖心で体が硬くなり、さらに転びやすくなっていませんか?転倒を繰り返す原因は、単なる筋力低下だけでなく、「身体の使い方」や「バランス能力の低下」にあります。安全な立ち上がり方を身につけることが、転倒の不安から抜け出す一番の近道です。

●床から一人ではどうしても立ち上がれない 

「床に座ることはできても、立ち上がることができない」という方は、ただ立ち上がる練習を繰り返すだけでは不十分です。「身体を支える力」や「体重移動のコツ」など、立てない根本的な原因を見極め、一人ひとりに合わせた段階的なリハビリを行う必要があります。

●ご家族の介助負担が大きくなっている

 ご本人のみならず、介助するご家族の腰や肩にも大きな負担がかかり、お互いにケガをするリスクが高まります。リハビリでは、ご本人の動きを良くするだけでなく、ご家族が「力を使わずに、安全に介助できるコツ」もお伝えします。

●「もう何年も経っているから変わらない」と諦めている 

発症から時間が経っていても、関節や筋肉に負担のない「新しい身体の使い方」を身につけることは十分に可能です。「前より楽に立てた!」「転ばなくなった!」と変化を実感される方はたくさんいらっしゃいます。

沖縄で片麻痺のリハビリをご検討中の方へ

床から立ち上がる動作は、ただスクワットなどの筋トレをすれば改善するわけではありません。大切なのは、現在のあなたの身体のクセ、そしてご自宅の環境に合わせた「オーダーメイドの動き方」を練習することです。

私たち「沖縄リハビリテーションステーションNOVA」では、単にリハビリ室で「できる運動」を増やすだけでなく、「ご自宅の生活の中で、本当に必要な動作ができるようになること」を一番の目標にしています。

【NOVAで一緒に目指せる目標の例】
・床から一人で立ち上がりたい
・もし転倒した場合でも、焦らず落ち着いて起き上がれるように想定しておきたい
・大好きだった和室で、もう一度安心して暮らしたい
・大切な家族の介助負担を、少しでも減らしてあげたい

当施設では、お客様一人ひとりの身体の状態や生活環境(畳、フローリング、普段お使いの家具など)を丁寧に評価し、あなたに最適なリハビリをご提案します。

立ち上がりだけでなく、歩くこと、方向転換、立ち座りなど、日常生活の動作をあわせて総合的に改善へと導きます。「今の生活でもっと楽に動けるようになりたい」とお悩みの方は、ぜひお気軽に当施設へご相談ください。

よくある質問(Q&A)

当事者様やご家族からよくいただく、床からの立ち上がりに関する疑問にお答えします。

Q. 片麻痺があっても、本当に一人で床から立ち上がれるようになりますか?

 A. 身体の状態によって個人差はありますが、正しい身体の使い方やコツを練習することで、お一人で立ち上がれるようになる方は多くいらっしゃいます。 まずは現在の身体の状態(どこが得意で、どこに課題があるか)を正しく評価し、その方に合った方法を見つけることが大切です。

Q. 転倒したときは、すぐに立ち上がらせた方がいいですか? 

A. いいえ、焦ってすぐに立ち上がろうとするのは禁物です。まずは一呼吸置いて、痛みやケガがないかを確認してください。 もし頭を強く打っていたり、強い痛みがある場合は、無理に動かさず医療機関へ連絡してください。安全が確認できてから、落ち着いて近くの頑丈な支えを利用して立ち上がりましょう。

Q. 床から立ち上がる練習は、毎日やった方がいいですか? 

A. 回数や頻度よりも、「安全で正しい方法で行えているか」が重要です。 疲労が溜まっている時や、体調が優れない日に無理に行うと転倒のリスクが高まります。ご自身の体調に合わせて、無理のない範囲で進めていきましょう。

Q. 家族はどのように介助すればいいですか? 

A. 力任せに無理やり抱え上げるのは、ご本人も介助者も腰などを痛める原因になり大変危険です。 大切なのは、ご本人が持っている「自分で動かせる力」を最大限に引き出せるよう、最小限の力でサポートすることです。

まとめ

片麻痺があると、麻痺した側に体重が乗せづらくなったり、身体のバランスを保ちにくくなったりするため、床からの立ち上がりが非常に難しく感じられます。

しかし、立ち上がりに必要なのは「強い筋力」だけではありません。「どこに手をつき、どうやって頭を動かし、どう体重を移動させるか」という『身体の使い方』を少し工夫するだけで、驚くほど動きやすさが変わります。

転倒への恐怖心がある方や、一人で立つのが不安な方は、決して自己流で無理をせず、専門家のサポートを受けながら安全に練習を進めていきましょう。

床から立ち上がることは、単に「転ばないための練習」ではありません。「これからもご自宅で、あなたらしく自由な生活を続けるための大切な動作」です。焦らず、一歩ずつ、ご自身の身体に優しい方法を一緒に見つけていきましょう。

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