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脳卒中で片麻痺になっても働ける?仕事復帰に向けて大切なこと
はじめに
脳卒中を経験したあと、多くの方が不安に感じることの一つが「仕事」ではないでしょうか。
突然倒れたことで入院生活が始まり、退院後はリハビリを続けながら生活を立て直していくことになります。
その中で、
「また仕事に戻れるだろうか」
「以前と同じように働けるだろうか」
「家族を養っていけるだろうか」
と悩む方は少なくありません。
特に40〜50代は仕事でも責任のある立場を任されていることが多く、住宅ローンや子どもの教育費など、生活を支える役割も大きい年代です。
そのため、脳卒中によって片麻痺などの後遺症が残った場合、「働けなくなったらどうしよう」と強い不安を感じることがあります。
しかし、脳卒中になったからといって、必ずしも仕事を諦めなければならないわけではありません。実際に脳卒中を経験したあと、仕事へ復帰している方はたくさんいます。
大切なのは、「以前と同じ状態に戻ること」だけを目標にするのではなく、「今の自分にできる働き方を見つけること」です。
この記事では、脳卒中後の仕事復帰について、多くの方が抱える不安や悩みに触れながら、仕事復帰に向けて大切な考え方を解説していきます。

「もう働けない」は本当でしょうか?
脳卒中になると、「もう働けないかもしれない」と考えてしまう方も少なくありません。しかし実際には、多くの方が何らかの形で仕事へ復帰しています。
脳卒中患者の復職率は研究によって差がありますが、一般的には30〜60%前後と報告されています。また、就労支援や専門的なリハビリテーションを受けながら復職を目指した場合、復職率がさらに高くなることも分かっています。
ある報告では、両立支援コーディネーターなどのサポートを受けた方の復職率は67.7%に達していました。さらに、日常生活で一部介助が必要な方でも80%が仕事へ復帰できたという報告もあります。
これらの結果から分かるのは、「脳卒中になったら仕事復帰できない」というわけではないということです。
もちろん、後遺症の程度や仕事内容によって状況は異なります。しかし、適切なリハビリや周囲のサポートを受けながら、自分に合った働き方を見つけることで仕事復帰を実現している方はたくさんいます。
「脳卒中になったから働けない」と決めつける必要はありません。まずは焦らず、自分の身体の状態を知ることが大切です。
参考文献:豊田章宏,佐伯覚,木谷宏,他:両立支援コーディネーター介入による脳卒中患者の復職状況 ~復職支援データベースによる検討~.脳卒中.2022;44(3):259-267.
仕事復帰を難しくする要因

脳卒中の後遺症は人によって大きく異なります。仕事復帰を考えるうえで影響しやすいものを見ていきましょう。
片麻痺による歩行速度の低下
片麻痺とは、身体の片側が動かしにくくなる状態です。
歩くことができても、長距離歩行が難しい方や歩くと疲れやすい方ほど復職に影響がでやすいと報告されています。
歩行能力は通勤につながるため特に電車やバス通勤をされる方にとっては大事な能力になります。歩行速度が速いほど復職に有利になるとされています。
特に仕事では、単に動けるだけでなく、安全に繰り返し動けることが求められます。そのため、退院後の生活では問題なくても、仕事になると難しさを感じる場合があります。
手の使いにくさ
仕事復帰を考える際、歩行よりも手の使いにくさが大きな問題になることがあります。
例えば、パソコン操作や書類作成などのお仕事は手の機能が復職に直結します。
仕事の種類はおおまかに2つに分けられておりそれぞれ必要な機能が異なります。
- ブルーカラーの仕事:工場や建設現場など身体を使う仕事。体力や手・足の動きが必要。
- ホワイトカラーの仕事:事務職や営業職などデスクワーク中心の仕事。集中力や注意力が必要。
「歩けるから大丈夫」と思っていても、実際に仕事を始めると手が思うように使えず困ることがあります。そのため、仕事で必要な動作を具体的に確認しておくことが重要です。
日常生活動作の自立度
日常生活動作(ADL)とは、食事や更衣・入浴など日常的に行われる動作のことです。日常生活動作が自立していないと復職が難しいとされています。
日常生活動作の自立は復職の前提条件と示されています。特に食事やトイレの動作などが自立していない場合介助が必要となりご本人の心理的な負担にもつながりやすいです。
そのため日常生活動作(ADL)の自立は復職を大きく後押しする要因とされています。
高次脳機能障害
高次脳機能とは、物事を覚える・考える・判断する・注意を向けるなど日常生活を送る上で必要な脳の働き全般のことです。
脳卒中患者において、集中力・問題解決能力・記憶力などに問題がある場合は復職が不利になりやすいと報告されています。
仕事は、①業務を理解する。②計画を立てる。③時間内に正確に遂行する。
一連の流れが求められ、ここに深く関わるのが高次脳機能です。
さらに、自動車運転をする場合でも
「人の飛び出しにとっさに対応できるか」
「赤信号を見落とさない」
という場面で高次脳機能が必要になります。
復職をするために高次脳機能を評価したり、リハビリをすることが大切です。
退院直後に無理をしないことが大切
退院すると、「早く元の生活に戻りたい」という気持ちが強くなります。
しかし、この時期は身体も心もまだ回復途中です。
焦って無理をすると、
- 転倒
- 体調悪化
- 疲労の蓄積
- 気持ちの落ち込み
につながることがあります。
特に真面目な方ほど注意が必要です。頑張ろうとする気持ちは大切ですが、回復には時間がかかります。
脳卒中後の回復は数週間では終わりません。数か月から数年かけて少しずつ変化していくものです。
そのため、退院後はまず生活を整えることを優先しましょう。
「生きるのがつらい」と感じる方もいる

脳卒中後には身体だけでなく心にも大きな変化が起こります。
今まで当たり前にできていたことができなくなると、
「なんで自分だけ…」「将来が見えない」「家族に迷惑をかけている」
と感じることがあります。
中には、生きづらさを感じ「何のためにリハビリを頑張ればいいのか分からない」という気持ちになる方もいます。
これは決して珍しいことではありません。
脳卒中後は多くの方が不安や落ち込みを経験します。特に仕事を生きがいにしていた方ほど、その喪失感は大きくなります。
しかし、そのような気持ちを一人で抱え込む必要はありません。家族や友人、主治医、リハビリスタッフなど、誰かに話すことも大切な回復の一歩です。
脳卒中後のうつ症状について知っておきたいこと

脳卒中後は身体だけでなく、心にも大きな負担がかかります。これまで当たり前にできていたことが難しくなったり、将来への不安が大きくなったりすることで、気持ちが落ち込むことがあります。
実際に、脳卒中を経験した方の約3人に1人がうつ症状を呈するといわれています。
うつ症状が続くと、リハビリへの意欲が低下したり、仕事復帰や社会復帰への自信を失ったりすることがあります。そのため、身体の回復だけでなく、心の健康にも目を向けることが大切です。
こんな状態が続いていませんか?
脳卒中後の気持ちの落ち込みは誰にでも起こる可能性があります。しかし、次のような状態が2週間以上続いている場合は注意が必要です。
- 気分が落ち込むことが多い
- 以前楽しめていたことが楽しめない
- 食欲がない、または食べ過ぎてしまう
- 眠れない、または眠り過ぎてしまう
- 何をするにも気力が湧かない
- 自分を責めてしまうことが増えた
- 集中できない、考えがまとまらない
- 動作や会話が以前よりゆっくりになった
- 「消えてしまいたい」「死にたい」と感じることがある
2つ以上当てはまり、それが続いている場合は、一度主治医や医療スタッフへ相談することをおすすめします。
特に、「消えてしまいたい」「死にたい」と感じることがある場合は、一人で抱え込まず、できるだけ早く医療機関や相談窓口へ相談してください。
また、ご家族がこのような変化に気づいた場合は、「気の持ちよう」と片付けず、本人の気持ちに寄り添いながら受診や相談を勧めることが大切です。
脳卒中後のうつは決して珍しいものではありません。適切なサポートを受けることで改善が期待できるため、一人で抱え込まず周囲の力を借りながら回復を目指していきましょう。
一人暮らしで仕事復帰を目指す場合

脳卒中後に一人暮らしをしている方は、さらに多くの課題があります。
仕事だけでなく、日々の生活の中で、食事の準備・洗濯・掃除・買い物・通院なども自分で行う必要があります。
そのため、一人暮らしの方は仕事復帰だけを目標にするのではなく、「生活全体を無理なく回せるか」という視点が重要です。
仕事が終わったあとも生活は続きます。仕事だけで体力を使い切ってしまうと、自宅での生活が苦しくなってしまいます。
特に退院後しばらくは、「働けるか」ではなく、「仕事と生活を両立できるか」を考えることが大切です。
必要に応じて家族や地域のサービスを利用することも検討しましょう。助けを借りることは甘えではありません。
長く安定した生活を続けるための大切な選択です。
仕事復帰前のチェックリスト
仕事復帰を考えている方は、次の項目を確認してみましょう。
□ 自宅から職場まで安全に通勤できる
□ 午前中だけでなく午後まで活動できる体力がある
□ 仕事に必要な動作(パソコン操作・立ち仕事など)が行える
□ 疲れが翌日まで強く残らない
□ 長時間の作業でも集中力を維持できる
□ 勤務時間や仕事内容について職場と相談できている
□ 困ったときに相談できる家族や医療スタッフがいる
すべてに当てはまる必要はありません。しかし、仕事復帰後の負担を減らすためにも、事前に確認しておくことが大切です。不安がある項目については、主治医やリハビリスタッフに相談しながら準備を進めていきましょう。
家族ができるサポートとは

家族は少しでも力になりたいと思うものです。
しかし、頑張って支えようとするあまり本人にプレッシャーを与えてしまうことがあります。
例えば、
「もっと頑張れば良くなるよ」
「早く仕事に戻らないと」
という言葉は励ましのつもりでも負担になることがあります。
本人は十分頑張っています。
大切なのは、「焦らなくていいよ」・「少しずつ進めば大丈夫」という安心感を与えることです。
また、本人ができることまで代わりに行う必要はありません。安全を確保しながら、自分でできることを増やしていくことも回復につながります。
リハビリで大切な考え方
仕事復帰を目指す方の中には、「もっと筋力をつければ働ける」と考える方がいます。
もちろん体力づくりは大切です。
しかし、仕事復帰に必要なのは筋力だけではありません。
重要なのは、
- 疲れにくい身体づくり
- 安全な移動能力
- 必要な手の機能
- バランス能力
- 日常生活能力
などを総合的に高めることです。
また、脳卒中後の回復は退院したら終わりではありません。退院後も身体は変化し続けます。
数か月後にできるようになることもありますし、数年経ってから改善する方もいます。
「もう回復しない」と決めつける必要はありません。
今の自分に必要な課題を見つけながら取り組むことが大切です。
仕事復帰後に気を付けたいこと
仕事復帰はゴールではありません。むしろ、新しい生活のスタートです。
復帰直後は、「周りに迷惑をかけたくない」「早く以前のように働きたい」という気持ちから、無理をしてしまう方も少なくありません。
しかし、無理を続けると強い疲労や体調不良、気持ちの落ち込みにつながることがあります。また、疲労によって転倒やケガのリスクが高まる場合もあります。
大切なのは、自分の身体のサインを無視しないことです。
- 疲れたら休む
- 困ったら相談する
- 無理な日は無理をしない
一見当たり前のようですが、仕事を長く続けるためにはとても重要なことです。
また、脳卒中による片麻痺を経験しながら医師として仕事復帰を果たし、現在も活躍されている方もいます。
沖縄リハビリステーションNOVAに通われている医師の先生が、脳卒中後の苦悩や葛藤、仕事復帰までの経験について発信されています。
仕事復帰や今後の生活に不安を感じている方は、ぜひ参考にしてみてください。
▶︎ 関連記事 脳卒中・片麻痺を乗り越えた、現役医師からのメッセージ

まとめ

脳卒中によって片麻痺が残ると、「もう仕事は無理かもしれない」と感じることがあります。
しかし実際には、多くの方が自分に合った形で仕事へ復帰しています。研究では脳卒中後の復職率は30〜60%前後と報告されており、適切な支援やリハビリを受けながら働き続けている方も少なくありません。
大切なのは、以前と同じ状態に戻ることだけを目標にしないことです。身体の状態を理解し、自分に合った働き方を見つけることが、長く働き続けるための第一歩になります。
回復のスピードは人それぞれです。周囲と比べる必要はありません。
少しずつできることを増やしながら、自分らしい生活を取り戻していきましょう。
脳卒中後の人生は終わりではありません。
新しい人生を築いていくためのスタートです。
