脳卒中後の肩の痛みはなぜ起こる?原因とリハビリでできることを解説

目次

はじめに

脳卒中後、肩に痛みを感じていませんか?

着替えをするとき、腕を動かすとき、夜寝ているときにズキズキと痛む。リハビリを頑張りたいのに、肩の痛みがそれを妨げてしまう。「この痛みはいつまで続くのだろう」「もう良くならないのでは」と不安を感じている方も多いかもしれません。

実は、脳卒中後に肩の痛みを経験する方は22~47%にのぼり、決して珍しいことではありません。

脳卒中後の肩の痛みは、単なる肩こりや五十肩とは異なる場合があります。痛みの原因も一つではなく、脳卒中による麻痺や身体の使い方の変化、姿勢の崩れなど様々な要因が関係しています。

この記事では、脳卒中後の肩の痛みが起こる原因や、改善に向けて大切な考え方について分かりやすく解説します。

脳卒中後の肩の痛みとは?

脳卒中後の肩の痛みは、多くの方に見られる症状です。脳卒中になると、手や足の麻痺だけでなく、肩に痛みが出現することがあります。

痛みの程度や現れ方は人によって様々です。

  • 少し腕を上げた時だけズキッと痛む」
  • 「動かさず、安静にしていても常に重だるい痛みがある」
  • 「夜間の痛み(夜間痛)のせいで寝返りが打てず、睡眠が妨げられる」

このように、日常生活のあらゆる場面で支障をきたすケースが少なくありません。

痛みがもたらす悪循環

肩の痛みが続くと、どうしても「動かすのが怖い」「また痛むのではないか」という恐怖心が生まれます。その結果、日常生活で麻痺側の腕を使う機会が自然と減ってしまい、動かさないことでさらに肩の関節が硬くなる、という最悪の「悪循環」に陥ってしまうことがあります。

肩の痛みは単なる不快な症状にとどまらず、日々の生活の質(QOL)を下げ、前向きに行いたいリハビリの進行をも大きく妨げてしまう要因になります。だからこそ、痛みを我慢せず、早めに原因を把握して対策を立てることが大切です。

どのくらいの人が肩の痛みを経験するのか

この脳卒中後の肩の痛みは、医学的には「脳卒中後肩痛(Post-Stroke Shoulder Pain: PSSP)」と呼ばれています。

これまでの多くの研究や統計データによると、脳卒中後に肩の痛みを経験する方の割合(有病率)は約22〜47%にのぼると報告されています。つまり、脳卒中を経験した方のおよそ4人に1人から2人に1人という高い割合で、何らかの肩の痛みに悩まされているのです。

  • 発症しやすい時期 脳卒中の発症後2週間から2ヶ月以内に現れることが多く、早い方では発症後1週間以内に痛みを感じ始めることもあります。

「なぜ自分だけこんなに肩が痛いのだろう」と不安になる必要はありません。非常に多くの方があなたと同じ悩みを抱えています。そして、この痛みは決して仕方のないものではなく、原因をしっかり把握することが大切です。

参考文献:Roosink M, Renzenbrink GJ, Geurts ACH, et al. Post-Stroke Shoulder Pain: A Comprehensive Review of Etiology and Management. International Journal of Environmental Research and Public Health. 2020;17(14):4962.

脳卒中後に肩が痛くなる3つの主要な原因

肩の痛みの原因は一つだけではありません。いくつかの要因が複雑に絡み合っていることが多く、医療現場ではこれを「多因子性」と呼んでいます。

ここでは、痛みを引き起こす主要な3つの原因を分かりやすく解説します。

原因1:肩関節そのものの問題(局所的・機械的要因)

臨床現場で最も多く見られるのが、肩の関節や筋肉が物理的にダメージを受けてしまうケースです。

  • 肩関節亜脱臼(あだっきゅう):麻痺によって肩を支える筋肉が緩むと、腕の重み(約3〜4kg)を支えきれなくなり、肩の関節が下にズレてしまいます。この重みで周囲の靭帯や神経が引き伸ばされることで痛みが引き起こされます(※ただし、亜脱臼があっても痛まない方もいます)。
  • 痙縮(けいしゅく)による異常な筋肉の突っ張り: 回復の過程で、麻痺した筋肉が過剰に硬くなる「痙縮」が現れることがあります。特に肩を内側に巻き込む筋肉が硬くなると、腕を動かした際に関節の隙間で筋肉や腱が挟み込まれ(インピンジメント現象)、鋭い痛みが走ります。これが長引くと、関節が固まる「拘縮(こうしゅく)」へと進行します。
  • 回旋筋腱板(ローテーターカフ)の損傷:肩の安定を保つ4つのインナーマッスル(腱板)が、亜脱臼や痙縮、あるいは肩関節に過度なストレスが加わることで傷つき、断裂してしまうことがあります。
  • 癒着性関節包炎(凍結肩・五十肩):痛みを恐れて肩を動かさない期間が長くなると、関節を包む膜が癒着して文字通り肩がロックされてしまいます。

原因2:脳のダメージによる痛み(中枢性要因)

肩の関節自体には問題がないのに、脳の痛みをコントロールする領域が傷ついたことで生じる痛みです。

  • 中枢性脳卒中後疼痛(CPSP):脳卒中後の約8〜14%にみられる神経障害性の痛みです。発症から2〜3ヶ月以内に現れることが多く、「焼けるような」「電気が走るような」「針で刺されるような」と表現される独特な強い痛みが特徴です。脳が痛みに過敏になっている状態のため、冷たいものに触れただけで激痛が走ることもあります。

原因3:肩から手にかけての激しい腫れと痛み(肩手症候群)

  • 複合性局所疼痛症候群(CRPS):脳卒中後10〜20%の割合で発症する、神経のトラブルが絡んだ難治性の症状です。リハビリ業界では古くから「肩手症候群(かたてしょうこうぐん)」として知られています。 単なる肩の痛みにとどまらず、「手全体のむくみ(腫脹)」「皮膚が赤紫になる」「触れるだけで痛い」「手が熱い・または冷たい」といった症状が伴い、放置すると日常生活が著しく制限されてしまいます。

肩の痛みは一つの原因だけではないことが多い

脳卒中後の肩の痛みは、一つの原因だけで起こることは少なく、複数の原因が重なっていることがほとんどです。

例えば、

筋肉の力が弱くなり肩が下がる(亜脱臼)

その後、筋肉の突っ張りが強くなる

痛みがあるため肩を動かさなくなる

関節が硬くなり、さらに痛みや動かしにくさが増える

といった悪循環が起こることがあります。

このように、時間の経過とともに様々な問題が重なり、肩の状態は複雑になっていきます。

そのため、肩の痛みに対して単にマッサージをしたり、無理に動かしたりするだけでは十分な改善につながらない場合があります。大切なのは、現在の痛みの原因がどこにあるのかを正しく評価することです。

理学療法士・作業療法士などの専門職が身体全体の状態を確認し、一人ひとりの原因に合わせたリハビリを行うことが、痛みの改善への大切な一歩となります。

実は「肩だけ」が原因ではないことも多い?

肩が痛いと「肩そのものの異常」を疑いがちですが、実際には肩だけを治療しても治らないケースが多く存在します。脳卒中後の肩の痛みを根本から解決するには、「身体全体」を見ることが重要です。

1. 姿勢の崩れ(土台の歪み)

脳卒中後に体が左右に傾いたり、背中が丸くなったりすると、連動して肩甲骨の位置がズレてしまいます。土台が歪んだままで腕を動かすため、肩の関節に無理なストレスが集中して痛みにつながります。

2. 体幹機能の低下(軸のブレ)

私たちは普段、お腹や背中(体幹)で体を支えながら、全身のチームワークで腕を上げています。しかし、脳卒中で体幹の働きが弱くなると、グラグラな土台をカバーするために肩が過剰に頑張らざるを得なくなり、負担が限界を迎えてしまいます。

3. 首からの影響

首まわりの筋肉が異常に硬くなったり、バランスが崩れたりすると、首から肩へつながる神経や筋肉が引っ張られ、肩の痛みとして現れることがあります。

💡 痛む場所だけを見ないことが大切

なかなか治らない肩の痛みは、「姿勢」「体幹」「首」など、別の場所に根本原因が隠れているサインかもしれません。

リハビリでは、痛む局所へのケアだけでなく、身体全体のつながりを評価してアプローチしていくことが改善への近道となります。

脳卒中後の肩の痛みを防ぐ「3つの予防ポイント」

肩の痛みは、一度ひどくなると改善までに時間がかかることが多いため、痛くなる前に予防することが何よりも大切です。今日から自宅で実践できる具体的なポイントを分かりやすく解説します。

ポイント1:リラックスできる正しい姿勢(ポジショニング)

寝ているときや座っているときに、麻痺側の腕が重力で引っ張られたり、不自然にねじれたりするのを防ぎます。

  • 仰向けで寝るとき: 麻痺側の肩甲骨の下に薄いクッションを挟んで肩が後ろに落ちるのを防ぎます。さらに、腕全体(肘から手首まで)の下にもクッションを敷いて優しく支えます。
  • 横向きで寝るとき: 基本は「良い(非麻痺側)を下」にして寝ます。麻痺側の腕は体の前に出し、抱き枕やクッションの上に乗せて支えましょう(※麻痺側を下にして寝るのは肩を痛める原因になるため避けます)。
  • 座っているとき: 車椅子や椅子に座る際は、腕がだらんと垂れ下がらないよう、アームレストやテーブル、クッションの上に腕を乗せて支えます。

💡 アームスリング(三角巾)の注意点

歩くときなどの亜脱臼予防に有効ですが、1日中着けっぱなしにしていると逆に関節が固まってしまいます。リハビリ職の指導のもと、動くときだけ着けるなどメリハリをつけましょう。

ポイント2:痛みのない範囲で動かす(関節の運動)

関節が固まるのを防ぐために毎日動かすことは大切ですが、「絶対に痛みを我慢して動かさない」のが鉄則です。

  • 仰向けでのバンザイ(前方挙上): 良い方の手で麻痺側の手首を優しく握り、ゆっくりと頭の方へ上げていきます。痛みの出ない範囲で10回行います。
  • 横への広げ(外転): 仰向けのまま、麻痺側の腕をベッドの床面に沿って横に広げていきます。角度は90度(真横)まで上がれば十分です。
  • 腕の回旋(ねじり運動): 肘を90度に曲げた状態で、前腕を車のワイパーのように外側・内側へとゆっくり回します。

⚠️ セルフ運動のコツと注意点

  • 回数は1日2〜3回、毎日コツコツ続けるのが効果的です。
  • お風呂上がりなど、体が温まっているときに行うと筋肉がほぐれて動かしやすくなります。
  • 肩の土台(肩甲骨)が一緒に動いていない状態で、無理に腕を頭の上まで引っ張り上げるのは関節を痛めるので厳禁です。

ポイント3:普段の生活での「正しい取り扱い」

不適切な扱いによって、一瞬で肩を痛めてしまうことがあります。ご本人はもちろん、ご家族や介助者の方も一緒に知っておきましょう。

  • 立ち上がり・移乗のとき(最重要):「絶対に麻痺側の腕を引っ張らない」でください。介助する際は、腕ではなく、お尻や骨盤、体幹をしっかりと支えます。ご本人が立ち上がる際も、良い方の手(非麻痺側)で手すりを持つようにします。
  • 着替えのとき: 「脱健着患(だっけんちゃくかん)」のルールを徹底します。
    • 服を【着るとき】は、麻痺している側の袖から先に通す。
    • 服を【脱ぐとき】は、動く(非麻痺側)側の袖から先に抜く。 この順番を守るだけで、肩への負担を劇的に減らすことができます。
  • お風呂のとき: 体を洗う際、麻痺側の腕を無理に後ろに回したり、引っ張ったりしがちです。できるだけ良い方の手で優しく洗うか、難しい場合は無理をせず介助してもらいましょう。

自分でできるストレッチ

👆横になってできる運動|肩の痛みが強い方や、肩周囲の緊張が高い方は、まず寝た姿勢から始めることで動かしやすくなることがあります。

👆座ってできる運動|座位での運動は、肩だけでなく姿勢や体幹の働きも意識しながら行うことで、実際の生活動作につながりやすくなります。

⚠️実施する際の注意点

運動中に強い痛みが出る場合は無理に続けないようにしましょう。

また、「大きく動かすこと」よりも「楽に動かせる範囲で丁寧に行うこと」が大切です。

肩の状態は人によって異なるため、痛みが続く場合や不安がある場合は主治医や担当の理学療法士・作業療法士へ相談することをおすすめします。

家族が知っておきたい3つのポイント

ご家族の「どう介助すればいいのだろう」という不安を解消するための、大切なポイントをまとめました。

1. 麻痺側の腕は「絶対に引っ張らない」

立ち上がりや移乗の際、腕を引っ張って支えるのは厳禁です。デリケートな肩を痛める最大の原因になります。介助の際は腕を持たず、お尻や骨盤、背中(体幹)を支えるようにしてください。

2. 痛みを我慢させない

「リハビリだから痛くても頑張る」必要はありません。強い痛みを我慢し続けると、かえって炎症が悪化し、動かすのが怖くなって生活の質が落ちてしまいます。我慢させず、早めに専門職へお伝えください。

3. 焦らず、じっくり見守る

痛みが長引くと焦るものですが、自己流で無理な運動を増やすのは逆効果です。現在の回復ステージに合わせて、一歩ずつ安全に進めていくことが、結果として一番の近道になります。

まとめ

脳卒中後の肩の痛みは、多くの方が経験する症状の一つです。

麻痺による筋力低下や肩の不安定さ、関節の硬さ、筋肉の緊張など様々な要因が関係しています。

さらに、姿勢や体幹機能、身体全体の使い方が影響していることも少なくありません。そのため肩だけを治療しても十分な改善が得られない場合があります。

また、痛み止めは症状を和らげる助けになりますが、根本的な原因の解決には身体全体を評価した上でのリハビリが重要になります。

肩の痛みによって日常生活が制限されている方や、なかなか改善がみられず悩んでいる方は、一人で抱え込まず専門家へ相談してみてください。痛みの背景にある原因を見つけることで、改善への糸口が見つかるかもしれません。

沖縄リハビリステーションNOVAでは、脳卒中後の肩の痛みや身体の使いづらさに対して、その方の生活に合わせたリハビリを提供しています。

肩の痛みでお悩みの方は、お気軽にご相談ください。

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