脳卒中当事者の方に向けて、専門家がどのように治療の予定を立てるか、後遺症の予後予測をどのように行うかについて解説します。
- 「リハビリを受けているけど、今後どうなるのかな?」
- 「どうやって専門家は治療計画を立てるの?」
といった疑問を解決します。
※脳卒中の予後予測の方法は存在しますが、あくまで「統計」に過ぎず、当然例外も存在します。個人の状況や環境によっては、予想通りにいかないことも多くあることをご周知願います。
脳卒中のリハビリにおいて重要な予後予測とは?
脳卒中のリハビリテーションの「予後」とは「病の経過」や、「見通し」を指します。
リハビリテーションや医師などの専門家は、発症直後に予後予測を立てることで、リハビリの内容や治療方針といった治療内容を大まかに計画します。大まかに立てた計画を元に、状況に合わせて修正しながらリハビリを進めていきます。
予後予測の重要性
予後予測をせずにリハビリを続けると、今行っている治療法が合っているのか、効果的なのか?今後、軌道修正が必要なのか?といった判断ができません。つまり、予後予測を立てずにリハビリを行うということは「目的地を決めずにドライブをしている」ようなものです。リハビリにおける予後予測は、「目的地」を決めて「その目的地に向かうための方策を練ること、考えること」であるといえます。
また、リハビリテーション(元の生活に戻るための訓練)は、リハビリの専門家だけが行うものではありません。医師、看護師や管理栄養士、ソーシャルワーカーなど、チームで患者様を治療していくにあたり、目標を共有することで治療内容を吟味することができるので、対応の統一化、入院中であれば退院後の検討などもできます。
しかし、予後予測だけに頼って患者様のリハビリ内容を考えるのもまた危険です。予後予測はあくまで「統計的に」そのようになる可能性が高い、というだけのことであり、もちろん例外もありますし、全くその通りにいかない場合もあります。
例えば、リハビリを行っている途中で肺炎を発症してしまい、全くリハビリを行えなくなってしまうこともよくあります。そういった場合は、当初立てた予後からは大きく外れることになります。現実的には完全に予後を予測することは、どう考えても不可能です。なので、矛盾するようですが、「予後予測は非常に重要ではあるものの、それだけに縛られて考えてはいけない」ということがいえます。
予後予測の基礎
では、どうやって専門家は予後を予測していくのでしょうか。脳卒中には様々な症状があるので、一つの予後予測だけだと精度は不十分です。
- 運動機能
- 脳画像
- FIM(機能的自立度評価法)
- 年齢
など、いろんな角度から多角的に予後予測することで精度を高める必要があります。また、以下の基本的かつ大雑把な予後予測をベース(基本知識)として、さらに詳しく予測していきます。
- 特定の脳領域の損傷は、言語や運動機能に影響を及ぼす。
- 脳幹や小脳の損傷は、平衡感覚や円滑な運動に影響を与える。
- 大脳皮質の損傷は、物を認識する機能や感覚の障害を引き起こすおそれがある。
- 高齢の患者様は、若年の患者様に比べて回復が遅い傾向がある。
- 基礎疾患(例えば糖尿病や心疾患、うつ病など)は、リハビリテーションの進行に大きな影響を与える。
最も用いられる二木の早期自立度予測
脳卒中の予後予測で最もスタンダードと思われるのが、「二木の早期自立度予測基準」です。臨床的で簡易に評価ができ、精度も高く、日本で最も使用されている予後予測法です。
発症時期に合わせて、
- 入院時の予測
- 発症2週時での予測
- 発症1ヵ月時での予測
の3つにわけられ、それぞれの時期によって使い分ける必要があります。
①入院時の予測
入院時のADL能力 | 歩行能力予測 |
ベット上生活自立(※1) | 歩行自立(大部分が屋外歩行可能で、かつ1か月以内に屋内歩行自立) |
基礎的ADL(※2)のうち2項目目以上実行 | 歩行自立(その大部分が屋外歩行かつ、大部分が2か月以内に歩行自立) |
運動障害軽度(※3) | |
発症前の自立度が屋内歩行以下かつ運動障害重度(※4)かつ60歳以上 | 自立歩行不能(大部分が全介助) |
Ⅱ桁以上の意識障害かつ運動障害重度(※4)かつ70歳以上 |
※3:Brunnstorm stage4以上(麻痺側下肢伸展挙上可能)※4:Brunnstorm stage3以下(麻痺側下肢伸展挙上不能)
②発症後2週時での予測
発症2週時でののADL | 歩行能力予測 |
ベット上生活自立(※1) | 歩行自立(かつその大部分が屋外歩行、かつ大部分が2か月以内に歩行自立) |
基礎的ADL(※2)3項とも介助かつ、60歳以上 | 自立歩行不能(かつ、大部分が全介助) |
Ⅱ桁以上の遷延性意識障害、重度の認知症、夜間せん妄を伴った中程度の認知症があり、かつ60歳以上 |
③発症1ヵ月時の予測
発症1か月でのADL | 歩行能力予測 |
ベット上生活自立(※1) | 歩行自立(かつその大部分が屋外歩行、かつ大部分が3か月以内に歩行自立) |
基礎的ADL(※2)の実行が1項目以下かつ、60歳以上 | 自立歩行不能(かつ、大部分が全介助) |
Ⅱ桁以上の遷延性意識障害、重度の認知症、両側障害、高度心疾患などがり、かつ60歳以上 |
④入院1ヵ月時に予測不能なケース
- 全介助で59歳以下
- 全介助60歳以上、遷延性意識障害・認知症・両側障害・高度の心疾患を有さず、しかも基礎的ADLを3項目中2項目以上実行可能
損傷部位による予後予測
予後に与える影響は、脳の損傷した部位と大きさによって異なります。そして、それは脳の損傷部位と大きさなどから、3項目に分類されます。
1.小さな病巣でも運動予後の不良な部位
- 放線冠(中大脳動脈穿通枝領域)の梗塞
- 内包後脚
- 脳幹(中脳・橋・延髄前方病巣)
- 視床(後外側の病巣で深部関節位置覚脱失のもの)
2.病巣の大きさと比例して運動予後がおおよそ決まるもの
- 被殻出血
- 視床出血
- 前頭葉皮質下出血
- 中大脳動脈前方氏を含む梗塞
- 前大脳動脈領域の梗塞
3.大きい病巣でも運動予後が良好なもの
- 前頭葉前方の梗塞・皮質下出血
- 中大脳動脈後方の梗塞
- 後大脳動脈領域の梗塞
- 頭頂葉後方~後頭葉、側頭葉の皮質下出血
- 小脳半球に原曲した片側性の梗塞・出血
運動機能の予後は、放線冠、内包後脚など錐体路を含んでいれば、例え小さな梗塞でも予後不良といわれており、小脳出血や小脳梗塞では、良好な改善がみられる場合があるとされています。損傷部位による予後予測では、初期症状からは予後予測の判断が難しいとされています。
発症直後の機能を元にした予後予測方法
脳卒中における予後予測の中でも、歩行自立度に関しては、理解力、学習能力があれば弛緩性完全麻痺の場合などを除き、ある程度の歩行自立は可能だと考えられています。そのため、理解力や学習能力の判断が重要になります。その他にも、発症後の身体機能をもとにした予後予測の方法があります。
脳卒中を発症して初日~3日で症状が安定しているときに、 ・背もたれがなければ座れない➡️車椅子レベル ・背もたれがなくても座れる➡️立位、装具と杖を使用して伝い歩きレベル ・手すりを持って立てる➡️装具と杖を使用して歩行可能 ・手すりを持たないでも立てる➡️杖歩行or杖なし歩行 |
これらはあくまで発症後の機能をもとにしたものであるため、脳出血では脳内の血腫の吸収度合にもよっても予後予測は変わりますし、運動麻痺では放線冠や内包にかかっているかどうかも重要な要素ですし、既往や合併症の影響も考慮しなければなりません。よって、この予測方法は参考程度にしかなりませんが、簡易的に予後予測をする方法としては便利です。
まとめ
脳卒中の予後予測について解説しました。
脳卒中の予後予測は発症後の程度によってある程度予後が予測できます。簡単にまとめると、発症直後に意識が消失しているような場合は、一般的に予後は不良になりやすく、発症直後に意識がはっきりとしていて歩いていた、という場合はそれほど後遺症が残らない場合もあります。また、年齢が若ければ若いほど回復が早くなる傾向があります。
経験として、予後予測を上回る回復をする患者様をたくさん見てきました。「もう二度と自分の足で歩けない」と医師に言われた患者様が、自身の努力と工夫によって杖を付いて歩けるようになった例もたくさん経験しています。
予後予測はあくまで円滑な治療計画を立案するために勘案するためのものであり、それで患者様の未来を決めつけてしまうものではありません。予後予測は重要ですが、それを元に患者様の希望や意見を取り入れ、発展的・建設的な目標を考えることが最も重要です。
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