脳卒中 当事者向け

リハビリの筋トレの回数や意味、目的とは?

リハビリでは  筋力トレーニング(筋トレ)をよく行います。リハビリで行う筋力トレーニングは一般的な方が行う筋トレとはどのように違うのでしょうか。 またリハビリの筋トレの回数や意味、負荷の設定の仕方、目的などについてもお伝えします。

リハビリテーションと筋力トレーニングの違い 

「リハビリテーション=筋トレ・マッサージ」と思っている方も多いと思います。しかし、厳密には意味が異なります。リハビリテーションとは、ラテン語で、re(再び)+ habilis(適した)を略したものです。すなわち、「再び本来の健常な状態に戻ること」を指します。 一方、トレーニングはラテン語で、「訓練する・教育すること」を意味します。リハビリは元の状態に戻ることを目標としているのに対して、トレーニングは人並み以上の能力を得るため鍛える、という意味があります。

リハビリは、 基本的に何らかの疾患により、以前の生活と同じように過ごすことができなくなってしまった方が対象になります。 一方、筋力トレーニングは、対象者を特に限定しません。リハビリテーションでは、筋力トレーニングは目的を達成するための1つの手段でしかなく、 その他にもストレッチやマッサージ、 動作指導、神経の促通など、様々な知識とテクニックを使って、目的の動作を調整します。

筋力トレーニングの効果 

筋力トレーニングには、ただ単に筋力を増強させるだけでなく、様々な効果があります。 

効果1 筋力の向上 

筋トレを行うと筋力が向上することは皆さんご存じだと思います。筋力とは文字どおり筋肉の発揮できる力のことで、1回で持ち上げられる最大重量によって測られます。筋肉は、パワーは強いものの、持久力が低く疲労しやすい「速筋」と持久力が高い半面パワーは弱い「遅筋」に分けられ、速筋の割合が多く、筋肉の断面積が大きいほど筋力が強くなります。

筋トレを行うと、筋肉を構成している「筋繊維」の一部が一時的に傷つけられますが、修復の過程で元よりも少し太くなる「超回復」という現象が起きます。これを繰り返すことにより筋肉が太くなり、断面積が大きくなります。

効果2 消費カロリー増大

ダイエットのために筋トレをしようかと考えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。筋トレでカロリーを消費することはできますが、残念ながら体脂肪の燃焼に効果的とはいえません。

しかし、筋トレを行うと基礎代謝がアップし、消費カロリーを増大させる効果があるといわれています。筋肉が増えると、筋肉は脂肪よりも余計にカロリーを消費する器官なので、普通に生活しているだけでもカロリーを多く消費できるようになります。結果的に痩せやすくなります。

効果3 姿勢改善

姿勢が悪くなる原因の一つに、体を支える筋肉が減っていることが考えられます。特に運動不足の方やデスクワークに従事している方は体を支える筋肉が硬くなったり、筋力低下しがちです。

筋トレで体幹筋群(腹筋群や広背筋、臀筋など)などの体を支える筋肉を鍛えれば、姿勢を改善しやすくなります。

効果4 ストレス軽減

個人差はあるものの、筋トレによってストレスが軽減される可能性があります。筋トレを行うと、ドーパミンやセロトニン、エンドルフィンといった神経伝達物質が脳内で分泌されます。

ドーパミンは快感物質とも呼ばれ、幸せな瞬間の他、強い苦痛を感じた場合にも分泌され、一種の脳内麻薬として苦痛を和らげるはたらきをします。また、セロトニンは精神の安定をもたらし、不足すると慢性的なストレスや疲労、うつ症状などを引き起こします。エンドルフィンには「体内で分泌されるモルヒネ」と言われており、気分が高揚したり幸福感が得られるという作用があります。こうした物質が分泌されることにより、筋トレ後は気分が高揚したり、つらい気持ちが和らいだりすると言われています。

実際、リハビリを受けて十分な運動を行なった方は、すっきりとした顔をされています。筆者自身も毎朝筋トレを習慣化していますが、やる気が出て、精神的にも身体的にも元気になることを実感しています。

効果5 糖代謝の改善やインスリン抵抗性の改善

筋トレは血糖値の改善や2型糖尿病の予防・改善にも効果があることが分かっています。2型糖尿病は、遺伝的要因に過食や運動不足などの生活習慣が重なって発症する、最も多いタイプの糖尿病の一種です。インスリンというホルモンの分泌が不十分になり、インスリンの血糖値を下げる作用が低下します。食後血糖値が上昇すると、膵臓(すいぞう)からインスリンが分泌されます。インスリンは血糖をエネルギーとして細胞に使わせることで血糖値を下げるはたらきを持つ唯一のホルモンです。

また、筋肉はヒトの体において最も多くのブドウ糖を取り込み、エネルギーの貯蔵庫としてのはたらきもあります。しかし、運動不足や加齢などによって筋肉量が低下すると、その分筋肉で消費されるブドウ糖の量が減り、血糖値が上がりやすくなってしまいます。筋トレを行って筋肉を維持しておくことで、血糖値の改善や2型糖尿病の予防・改善につながります。

リハビリで行う筋トレの目的

 一般的な筋トレは、「筋肉を大きくする」とか「見た目を良くする」、「ダイエットをする」という目的で行われることが多いですが、上述のように、リハビリでは目的を達成するために筋トレを行います。

その目的とは、例えば「病前のように一人で、居室からトイレまで歩いて排泄をする」など日常生活動作に基づくものが多いです。( もちろん人によって異なります。)

 例えば、トイレまで歩くことができない方であれば、どこの筋肉が弱いのかを評価・分析し、その筋肉を鍛えることで 目的を達成できるようにリハビリを行います。お尻の筋肉が弱いと、歩く時に骨盤や股関節が安定せず、 フラフラして転倒しやすくなります。

そういった方には、リハビリで”お尻上げ”の運動を行い、臀筋群を鍛えることもあります。

※お尻上げ=仰向けで寝て、両膝を曲げ、地面からお尻を上げる運動。

「リハビリでよく行われる”お尻上げ運動”の詳しいやり方は上記YouTubeで!」

リハビリでの筋力トレーニングの負荷の設定

リハビリで行う筋力トレーニングも、一般的な筋力トレーニングと負荷の設定方法は同じです。しかし、ほとんどの場合、リハビリで筋力トレーニングを行える時間はごくわずかで限られているため、そのときだけ運動をしても十分な筋力増強効果は見込めません。自主トレーニングなどで自ら習慣化することは、ほぼ必須と言えます。筋トレの負荷量を考慮する際には、以下の法則を考慮した上で決定します。

過負荷の原則

心肺機能や骨格筋の筋力を向上させるためには、普段より強い負荷が必要であり、一般的には最大筋力の60%以上の強度で筋力トレーニングをする必要があるといわれています。また、最大収縮の20%より強い運動で速筋線維が働き、20%より弱い運動で遅筋線維が使われやすいという報告があります。軽すぎる運動では筋力増強効果は見込めないため、だいたい何とか10回行える負荷の運動(10RM)を行うことが一般的です。

特異性の原則

トレーニングの効果は、行なった運動様式や使用した筋肉に依存するという法則です。例えば運動強度は筋力増強を目的にするのであれば、高強度で低回数、持久力向上を目的にするのであれば低強度で高回数を行う方が効率的だとされています。また、ある特定の関節角度で筋力トレーニングを実施した場合、その関節角度における筋力トレーニング効果が高いといわれているため、獲得したい動作のなかで筋力トレーニングの要素を含めた方が効率が良くなります。

筋収縮の種類別による筋力トレーニング

筋肉の動かし方にも考慮し、運動方法を決定します。

求心性収縮

筋の長さが短くなりながら筋収縮する運動方法です。(例:肘を伸ばした状態からダンベルを持ち上げる時の腕の力こぶ:上腕二頭筋の運動)。普通に運動すると、多くの場合求心性の収縮になります。

遠心性収縮

筋の長さが伸張しながら筋収縮する運動方法です。(例:肘を曲げた状態からダンベルを下ろすときの上腕二頭筋の運動)。筋力増強効果が高いと言われており、リハビリで積極的に活用されることが多い運動方法です。

等尺性収縮

関節を動かすことなく筋収縮させる運動です。(例:肘を曲げた状態で止めておくときの上腕二頭筋の運動)変形性膝関節症、リウマチなど、関節に痛みがある疾患をお持ちの方には、等尺性収縮での運動を行うことが多いです。

まとめ

リハビリは、 基本的に何らかの疾患により、以前の生活と同じように過ごすことができなくなってしまった方が対象になります。 一方、筋力トレーニングは、対象者を特に限定しません。リハビリテーションでは、筋力トレーニングは目的を達成するための1つの手段でしかなく、 その他にもストレッチやマッサージ、、 動作指導、神経の促通など、様々な知識とテクニックを使って、目的の動作を調整します。

筋力トレーニングの効果は、

  1. 消費カロリーの増大
  2. 姿勢改善
  3. ストレス改善
  4. 糖代謝の改善やインスリン抵抗性の改善

などがあります。

筋力トレーニングを行う際は、

  1. 過負荷の原則
  2. 特異性の原則

などを考慮しながら負荷量を決定します。一般的に、10RM(10回動かせる程度の重さ)で筋力増強を図ります。リハビリで筋力トレーニングは非常に重要な選択肢の一つなので、ぜひ参考にしてみてください。

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