脳卒中 当事者向け

脳梗塞と便秘の関係性、改善方法は?

脳梗塞や脳出血後に、お通じが出づらくなったと感じている方は多いのではないでしょうか?入院中、多くの脳卒中当事者の方々が「便が出にくくなった」と悩んでおられます。

脳卒中と便秘の関係性はどうなっているのでしょうか。また、実際に脳卒中当事者の方でお通じが出にくい方はどう対処すれば良いのでしょうか。今回は、便秘と脳卒中との関係性について解説します。

便秘について基礎知識

便秘は、ご存知のとおり、お通じが出づらい状態です。日本内科学会では「3日以上排便がない状態、または毎日排便があっても残便感がある状態」を便秘の定義としています。厚生労働省の国民生活基礎調査(2016年)によると、男性は約40人に1人、女性では約20人に1人が便秘の症状を自覚しており、かなり多くの方が便秘で悩んでいるということになります。

最近では、「腸脳相関」といって、脳の働きに腸の状態が大きく関係していることが研究から明らかになっています。排便がうまく行えなかったり、腸が不活の状態であると、性格も落ち込みやすくなったり、前向きに挑戦する意欲が湧かなくなることが示唆されています。幸福度を高めて幸せな人生を送るために、腸の状態を整えていく「腸活」の重要性がますます高まっているといえます。

便秘は、その原因や症状により、タイプ分けをすることができます。

1.器質性便秘

大腸癌や腸閉塞など、物理的に通り道が狭くなり便秘となること

2.機能性便秘

消化管の機能が原因で便秘になること

さらに、機能性便秘には、以下の3つがあります。

2-1弛緩性便秘

大腸の運動が低下する

2-2けいれん性便秘

腸管が緊張しすぎてしまい、排便が困難になる

2-3直腸性便秘

便をうまく排出することができない

高齢の方では、複数の原因があることも多く、これらの要素が入り混じって便秘となっていることがあります。

便秘の危険性

便秘はありふれた症状であるため「数日お通じがなくてもそれほど気にしない」という方も多いと思います。しかし、便秘はさまざまな疾患の原因になる可能性があります。

まず、便秘になると、腸管の内圧が上昇します。すると腸管の血流が障害され「虚血性腸炎」という疾患を起こすことがあります。また、大腸の壁が一部突出する大腸憩室ができやすくなり、憩室炎の原因になることがあります。どちらも症状が強い場合には、手術や入院が必要となる病気です。また、便秘になると排便をする際に必要以上に”力む”必要があります(怒責=いきみ、といいます)。

怒責時には、急な血圧の上昇、また排便後には血圧が急に低下することが分かっており、急激な血圧の乱高下に体がついていくことができないと、脳や心臓の血管が破綻し、脳梗塞や脳出血、心筋梗塞の原因になることもありえます。必要以上に恐れる必要は全くありませんが、できるだけ便秘を解消させるほうが、体に良いことは知っておいて頂きたいと思います。

脳梗塞と便秘の関係

脳梗塞を発症すると、その後便秘を自覚することが多くなります。脳梗塞を発症し、何らかの後遺症が残った場合、一日の活動量が減少することが原因のひとつとされています。

実際、発症後は病院で数ヶ月過ごすことが一般的で、病院の自室にはベッドが置いてあります。日中横になって過ごすことが増えるので、活動量はどうしても低下してしまいます。活動量が減少すると、消化管の蠕動(ぜんどう)運動が少なくなるため、便が滞り、固くなりやすくなります。タイプでいえば、弛緩性便秘を発症しやすくなっている状態です。

また、脳梗塞の後遺症で腹筋の力や骨盤底筋群の力が弱くなるため、自力で便を排出するのが難しくなってしまいます。(意外と知られていませんが、左右どちらの大脳半球で梗塞が起きても、腹筋群や骨盤底筋群はほぼ必ずマイナスの影響を受けます。)この場合、直腸性便秘の要素も含まれると考えられます。

そのほか、活動量の減少や発症後の気分の落ち込みが原因で、食事量が減少したり食事内容が偏ってしまったりすることも、便秘の原因となりえます。移動が困難になってしまった方などは、トイレが近くなるのを嫌い、水分を摂る量が足りていないため便秘になるというケースもあります。

脳梗塞後の便秘解消法

脳梗塞後の便秘は、消化管や排便に関する機能の障害が主であると考えられるため、その他の機能性便秘と同様に対処する必要があります。便秘への対処は大きく分けて、以下の2つがあります。

  1. 生活習慣の改善(薬以外によるもの)
  2. 薬の助けを借りるもの

以下に詳しく解説していきます。

生活習慣の改善

薬以外の方法は、主に生活習慣によるものです。排便を一日のリズムに取り込み、習慣化できれば便秘が改善しやすくなります。

一般的に、朝起きたときは腸管がよく動いていて、便が出やすい状況になっています。そこに水分や食べ物が入ることで刺激となり、便意を催すことになります。きちんと朝の時間に起き、水分を取ったり、朝食を毎日規則正しい時間に取ることで排便しやすい体つくりをすることができます。

また、腸の運動を活性化し、排便の力を維持するためには、適度な運動が欠かせません。毎日継続して、歩行、お腹周りの運動(上向きで寝て腰をひねる運動や、腹筋運動など)を行うと、腸への刺激となり、腹筋など排便に関わる筋力を維持することができます。実際、脳梗塞後遺症当事者の方に歩行練習をした後に「便意が出てきた」という訴えが起こることがよくあります。現代人は、ただでさえ運動不足です。少し歩きすぎかな?というくらい歩いてちょうど良いくらいです。

食事では、十分に水分を摂取するようにしましょう。体重60kgの方では、一日に2リットル程度の水分摂取が必要です。純粋な飲水だけではなく、食べ物(食事)からも水分を摂取できるので、水を1日に2リットル飲まないといけない訳ではありませんが、1〜2時間毎に一回程度軽く水を口に含む程度の水分摂取を心がけると良いでしょう。

食物繊維は腸管で吸収されずに残るため、水分を含んで便の一部となります。一昔前は食物繊維は栄養価がなく、”食べ物のかす”などと言われ、重要視されていませんでした。しかし、良好な腸内環境の維持があらゆる病気の予防に繋がることがわかってきており、今では全く逆で、むしろ積極的に食物繊維を摂取することが推奨されています。食事に食物繊維が多く含まれるものを摂取すると、便が柔らかくなり、スムーズに排便することができます。

服薬

薬の助けを借りる場合は、便秘薬を使用します。便秘薬には、非刺激性下剤(機械的下剤)と刺激性下剤があります。速やかに効果が出やすい薬剤ではありますが、長期に服用すると効果が出づらくなったり、他の副作用が出現したりする可能性が高くなります。薬に頼りすぎず、生活習慣での心がけを中心に考えていく必要があります。お薬はあくまで補助的に使用するもの、という認識が正しいのではないでしょうか。

まとめ

脳梗塞と便秘の関係について解説しました。脳は全身へ司令を出す重要な器官ですが、消化管も、エネルギーを取り入れて生命を維持するために欠かせない、同じく重要な器官です。

便秘にお悩みの方は、安易に便秘薬に頼るのではなく、生活習慣の心がけから始めていくようにしましょう。当院では、管理栄養士と連携し、栄養面でも脳卒中後遺症の方をサポートさせていただいております。お気軽にご相談ください。

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