脳卒中を経験された方の中には、姿勢が崩れてしまい悩んでいる方も多いのではないでしょうか。なぜ脳卒中によって姿勢が崩れてしまうのか、その原因と改善策について解説していきます。
脳卒中と姿勢の崩れ
脳卒中によって脳の特定の部位が損傷を受けると、身体の動きをコントロールする神経回路が損なわれます。この神経回路の障害が、姿勢の制御に影響を与え、姿勢の崩れを引き起こします。
姿勢の崩れを引き起こす主な原因
- 筋肉の緊張異常:麻痺側の筋肉が過度に緊張したり、逆に弛緩したりすることで、身体のバランスが崩れやすくなります。
- 感覚情報の伝達障害: 体感や平衡感覚が低下することで、身体の位置や動きを正確に把握できなくなり、姿勢を安定させることが困難になります。
- 運動指令の伝達障害:脳から筋肉への運動指令がうまく伝わらなくなることで、意図した通りの動きができなくなり、姿勢が崩れます。
- 体幹の不安定性:体幹の筋肉が弱くなると、身体の中心である体幹が不安定になり、全身のバランスが崩れやすくなります。
脳卒中と筋緊張異常のメカニズム
脳卒中を経験された方の中には、片麻痺や痙縮といった、筋肉の緊張に異常をきたす方が多くいらっしゃいます。この筋緊張異常は、脳卒中によって脳の機能が損なわれることで生じる、非常に複雑な現象です。
筋緊張異常が起こる主な原因
- 上位運動ニューロンの障害:脳の運動中枢である上位運動ニューロンが損傷を受けると、筋肉の活動が抑制されなくなり、結果として筋緊張が亢進します。
- 抑制系の機能低下:脳には、筋肉の活動を抑制する神経回路が存在します。この抑制系の機能が低下すると、筋肉が過剰に収縮し、痙縮(けいしゅく)を引き起こします。
- 感覚入力の異常:体性感覚(触覚、深部感覚など)の入力が低下すると、脳が身体の状態を正確に把握できなくなり、筋肉の緊張が適切に調節できなくなります。
- シナプス可塑性:脳卒中後、脳は損傷を補うために神経回路を再構築しようとしますが、その過程で異常なシナプス結合が形成され、筋緊張異常を引き起こすことがあります。
筋緊張異常の種類と特徴
- 痙縮: 筋肉が持続的に収縮し、関節が屈曲したり伸展したりする状態です。
- 固縮: 筋肉が硬くなり、関節の可動域が制限される状態です。
- 弛緩: 筋肉が必要以上に弛緩し、力を入れづらい状態です。
筋緊張異常がもたらす影響
筋緊張異常が起きると、様々な弊害が出現します。
- 疼痛:筋肉の緊張が強くなると、痛みを伴うことがあります。
- 関節拘縮:長期にわたる筋緊張は、関節の可動域を制限し、関節拘縮が起きる可能性があります。
- 日常生活動作の制限:手足の動きが制限され、食事、着替え、歩行などの日常生活動作が困難になることがあります。
- 転倒リスクの増加:バランス能力が低下し、転倒しやすくなります。
- 心理的な影響:身体の不自由さから、抑うつ状態や不安感を感じる方もいらっしゃいます。
筋緊張異常の治療の種類
筋緊張異常の治療には、リハビリ以外にも薬物療法、物理療法、ボツリヌス毒素療法などがあります。
- 薬物療法:筋肉の緊張を緩める薬剤(抗痙攣薬など)を使用します。
- 物理療法:ストレッチ、温熱療法、電気刺激などを行い、筋肉の緊張を緩め、関節の可動域を広げます。
- ボツリヌス療法:筋肉にボツリヌス毒素を注射することで、筋肉の収縮を抑制します。
筋緊張異常により生じる姿勢の崩れがもたらす影響
上述の筋緊張の異常により生じる姿勢の崩れは、単に見た目の問題だけでなく、様々な悪影響を及ぼします。
- 痛み:姿勢の悪化は、肩こり、腰痛、関節痛などの原因となります。
- 機能低下:日常生活動作の制限、歩行困難、転倒リスクの増加など、生活の質を低下させます。
- 呼吸機能の低下:猫背など、姿勢が悪いと呼吸が浅くなり、呼吸機能が低下する可能性があります。
- 心理的な影響:姿勢が悪いと自信がなくなったり、うつ状態になりやすくなったりする可能性があります。
姿勢改善のためのリハビリテーション
姿勢を改善するための代表的なリハビリテーションメニューを下記にご紹介します。
- 体幹トレーニング:体幹(体)を安定させるための運動です。
- ストレッチ:筋肉の緊張を緩め、関節の可動域を広げる運動です。
- バランス訓練:片足立ちや不安定な面での歩行など、バランス感覚を養う運動です。
- 日常生活動作訓練:食事、着替え、歩行など、日常生活に必要な動作の練習です。
具体的な体幹トレーニング
具体的にリハビリでよく行われる姿勢改善のための体幹トレーニングをご紹介します。
1. ブリッジ
- 仰向けになり、膝を立てます。
- お尻をゆっくりと持ち上げ、体幹を一直線にします。
- この姿勢を数秒キープします。
2. プランク
- うつ伏せになり、肘とつま先で体を支えます。
- 体を一直線にし、お腹を凹ませます。
- この姿勢を数秒キープします。
3. サイドプランク
- 横向きになり、肘と足をついて体を支えます。
- 体を一直線にし、腰が反らないように注意します。
- この姿勢を数秒キープします。
4. 四つ這い
- 四つん這いになり、背中を平らにします。
- 片手と反対側の足を同時に伸ばします。
- この姿勢を数秒キープします。
5. バランスボール
- バランスボールに座り、バランス感覚を養います。
- ボールの上で前後左右に揺れたり、手を伸ばしたりする運動を行います。
6. 体幹ツイスト
- 椅子に座り、両手を胸の前で組みます。
- 上半身を左右にゆっくりとねじります。
姿勢改善のための生活習慣
リハビリテーションや運動だけでなく、日常生活での心がけも大切です。
- 正しい姿勢を意識する:座るときは背もたれに寄りかかり、立ち上がるときは膝を曲げてゆっくりと立ち上がるなど、正しい姿勢を意識しましょう。
- 定期的な運動:筋肉の強張りや偏りを減らすため、ウォーキングやストレッチなど、軽い運動を習慣化しましょう。
- バランスの良い食事:体重を標準体重に保つことで姿勢の崩れを予防できます。
まとめ
脳卒中後の姿勢の崩れは、様々な要因が複雑に絡み合って起こる問題です。しかし、バランス練習や筋力トレーニングなどのリハビリテーションと日常生活での心がけによって、改善することは可能です。諦めずに、積極的にリハビリに取り組むことが大切です。
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